226 研究領域の現状
安全衛生管理室
戸 村 正 章(助教) (2004 年 6 月 1 日着任)
A -1) 専門領域:有機化学,構造有機化学,有機固体化学
A -2) 研究課題:
a) 弱い分子間相互作用による分子配列制御と機能性分子集合体の構築 b) 新しい機能性電子ドナーおよびアクセプター分子の開発
A -3) 研究活動の概略と主な成果
a) 水素結合性ドナーであり,かつ,電子アクセプターでもあるシアナニル酸は,機能性超分子集合体の構成成分分子 として注目されている。シアナニル酸の分子・結晶構造は,これまで六水和物のもののみが知られていたが,今回, 新たな水和異性体であるシアナニル酸二水和物を見いだすことに成功し,その分子・結晶構造をX線結晶構造解析 により決定した。単位格子の体積は六水和物のもののおよそ半分で,六水和物の結晶に見られた水分子からなるネッ トワークは形成されていなかった。
b) 高い平面性を有する π 共役分子は,優れた半導体特性を示す分子として注目を集めているが,溶解性が乏しいとい う欠点を持つ。そこで,N - B oc ピロールを熱変換ユニットにもつπ 共役分子を設計・合成し,その構造をX線結晶 構造解析により決定した。2,5位に種々のアリール基を持つ N-Boc ピロール誘導体は良好な溶解性を示し,示差熱・ 熱重量分析により B oc 基が脱離することを確認した。熱変換後は平面構造へと変化し,紫外可視吸収スペクトル, サイクリックボルタンメトリー測定において物性変化が観測された。
B -1) 学術論文
E. HASEGAWA, E. TOSAKA, A. YONEOKA, Y. TAMURA, S. TAKIZAWA, M. TOMURA and Y. YAMASHITA,
“Photoinduced Electron Transfer Reaction of α-Bromomethyl Substituted Benzocyclic β-Keto Esters with Amines: Selective Reaction Pathways Depending on Nature of Amine Radical Cations,” Res. Chem. Intermed. 39, 247–267 (2013).
B -7) 学会および社会的活動 学協会役員等
日本化学会コンピューター統括委員会 CSJ -W eb 統括的管理運営委員会委員 (2001–2002). 日本化学会広報委員会ホームページ管理委員会委員 (2003–2012).
C ) 研究活動の課題と展望
有機固体における電気伝導性,磁性,光学的非線形性などの物性の発現には,その分子固有の特質のみならず,集合体内 でどのように分子が配列しているかということが大いに関与している。そのために,このような機能性物質の開発には分子配 列および結晶構造の制御,すなわち,「分子集合体設計」というコンセプトが極めて重要となってくる。しかしながら,現状で は,簡単な有機分子の結晶構造予測さえ満足には成し遂げられていない。このことは,逆に言えば,拡張π 電子系内に,水
研究領域の現状 227 素結合などの分子間の弱い相互作用を導入し,種々の分子集合体を設計・構築するという方法論には,無限の可能性が秘 められているということを示している。今後は,水素結合のみならず,ヘテロ原子間相互作用・C–H···π 相互作用・立体障 害といった新しいツールによる分子集合体設計,特に,格子状多孔性有機超分子構造体の構築に取り組みたい。また,ハ ロゲン原子と窒素原子あるいはπ 電子系との間のノンコバレントな相互作用(C–X···N,C–X···π)は結晶工学上有用なツール
となり得る可能性を秘めているが,水素結合系と比較してその報告例は少ない。そこでこれを用いた分子集合体設計にも注 目している。さらに,合成された分子の分子配列を決定づけているこれらの分子間相互作用の理論的な精密解析を行い,得 られた情報に基づいてその構造や機能を理解すると共に,これらの構造を再現しうるヒューリスティックな高速計算手法の開 発を通じて,結晶構造の計算化学的な予測方法を探求することを最終的な目的としたい。最後に,この分野の研究の発展に は,新規化合物の開発が極めて重要であるので,「新しい機能性電子ドナーおよびアクセプター分子の開発」の研究課題も 続行する。加えて,以上のような研究活動と安全衛生管理業務の効率的な両立を常に念頭に置いている。